1.森の名手・名人の循環型原木シイタケの生産現場見学、自伐への思いを聞く。 11/2(金)

講師 響繁則 氏(公益社団法人国土緑化推進機構「平成23年度森の名手・名人」)

響さんは島根県奥出雲町阿井地区で林業をされ、昭和30年代後年から原木シイタケの生産もされています。今回は実際に作業されている生産場所を見学し、自伐への思いを伺いました。

原木シイタケ生産現場

響さんは1年間に約3,000本のシイタケの植菌をされています。シイタケの原木にはナラ、クヌギなどの落葉広葉樹を使いますが、響さんの山はほとんど造林され針葉樹が植わっているので、シイタケづくりに必要な木も場所もありません。 そこで他の山林所有者の落葉広葉樹林で木を切って植菌します。

1~2年そこで「裸地伏せ」した後、湿度のある針葉樹林にほだ場を移します。とても手間はかかるけど、この方法が菌がよくまわって良いシイタケができるそうです。1回の植菌で5~6年はシイタケができ、終わればまた別の所で作業をします。 山林所有者は木と場所を提供するかわりに、響さんに山の手入れをしてもらい、響さんは木を切るかわりにシイタケをつくらせてもらう。まさにwin-winの関係で成り立っているなあと感じました。

またこの方法だと、響さんが手を入れた後、山に適度に光が入り木が成長するので、例えば20年後にはまた同じ方法でシイタケが作れ、持続可能なシイタケ栽培ができるのです。

自伐へのこだわり

響さんは自分で木を切る「自伐」に対してとても強い思いを持っておられます。 山林所有者でも、自分で管理ができないため森林組合などの事業体に間伐や枝打ちなどの管理をお願いする人が多くいます。もちろん悪いことではないのですが、土日などできる範囲でいいから自分で山の手入れをして欲しいとお話されました。

その思いの源は“自分の山に対する愛着を忘れないでほしい”ということでした。 響さん「農地でも自分の町でもそうだけど、“愛着”がなくなったら頑張れないでしょ?それを忘れたらダメだから。」 この言葉が響さんの暮らしや仕事に一貫して通じているんだろうな、と思いました。

奥出雲町オロチの深山きこりプロジェクト(以下、きこりプロジェクト)について

自伐への思いから、響さんが所属する仁多郡林業研究グループが発端となり、奥出雲町全体できこりプロジェクトをしようという動きになりました。詳しくは、2井上さんのお話をご一読いただきたいのですが、簡単にいうと、自分の山から間伐材を切り出して集積場所に持っていくと、通常の倍の引き取り価格となる1t当たり6千円もらえるというプロジェクトです。

このプロジェクトの目的は、単に間伐材を切り出してもらいたいというものではなく、山林所有者はもちろん、後継者にも山に関心を持ってもらうきっかけづくりなのです。また、U・Iターンして来られた人の就労の場となり、定住化にもつながればいい、とお話されました。今後の課題としては、自伐を推進していくために、しっかりと安全講習を行うことや、作業道の整備をしていくことを挙げられました。

自伐が土地への愛着を生み、定住につながる。そうすると山に継続的に手が入り、山も元気になる。山が元気になれば巡り巡って、私たちに恩恵がくる。このサイクルのはじめの一歩だが、なかなか踏み出せないこの一歩の後押しとなるように、プロジェクトが広がるのを今後も期待したいです。

2.奥出雲町オロチの深山きこりプロジェクトと自伐について 11/2(金)

講師 井上純弘 氏 (仁多郡林研事務局長)

平成21年に岐阜県で始まった「木の駅プロジェクト」ですが、今では実施箇所、全国13ヶ所のうち7ヶ所が島根県内という広がりを見せています。プロジェクトの仕組みは地域によって多少異なりますが、奥出雲町では、平成24年度から、山林所有者が山の木を伐採して、所定の場所に持っていくと、1t当たり6千円の奥出雲町商工会商品券がもらえるという形で行われています。

平成19年~H23年まで、仁多郡林業研究グループは補助金を使いながら土壌調査を行ってきました。見た目に良さそうな森林も、土壌調査をすると腐植が少なく、養分の保持力も弱いことがわかりました。そこで間伐を行いました。すると下層植生が発生し、腐植層が増えることがわかりました。これをきっかけに間伐の重要性を再認識し、今回のプロジェクトにつながってきたということです。

プロジェクトを行うに向けて、説明会のチラシの全戸配布をし、伐木・造材・集材研修、森の健康診断、安全講習を行い、着実に集荷を増やしています。 補助体制や伐木数量、登録者のレベルアップなど課題もあるようでしたが、森林面積が県土の約8割を占める島根県なので、さらにこのプロジェクトが広がり、自伐の動きが広がるといいなと感じました。

3.「新たな森林環境改善手法の取り組み」 11/3(土)

講師 田中賢治 氏 (国土防災技研(株)緑環境事業部長)

田中さんは日本各地で山の土壌調査を行い、学会発表や学校での環境教育をされています。また世界の土壌調査も行い、グローバルな視点から、今山で起きている事や、山でしなければならない事を発信しつづけておられます。 H19年度から、NPO法人もりふれ倶楽部、仁多郡林研グループと共同で奥出雲町の森林調査や間伐等の活動を行い、長い間手入れがされていない人工林の下層植生が消失していることから、下層植生を復活させ、森林の健全化に向けて間伐を実施しました。しかし、下層植生がなかなか回復しなかったため、以下のような製鋼スラグを用いた実験を行い、下層植生の回復を早める方法をお話いただきました。

・土壌分析の結果、ミネラル分が枯渇した状態であることがわかる。

・土壌中のミネラル不足が下層植物の回復に大きな影響を与えているのではないかと推測

・安価で、ミネラル分も豊富な製鋼スラグを主成分とした人工ミネラルを使って実験する

・製鋼スラグを散布すると、植物の生育に必要な微量要素の値が大きく上がり(土壌養分環境の改善)、下層植生が成長する。森林の表土に腐食があれば、より効果がある。

・森林環境をより早期に復元できる!

また、林道のぬかるみなどの整備には、現在主に砕石やソイルセメントが使用されていますが、鉄鋼スラグを使用すると、より経済的で、施工もより簡単になるということです。

鉄鋼スラグは鉄鋼製造工程において発生する副産物なので、安価に手に入ります。またそのもの自体はpH=10~12と強いアルカリ性ですが、表土と混合しても下方の土壌のpHにほとんど影響がありません。 今後の課題としては、混合する鉄鋼スラグの最適量を把握し、長期的に安定性が確保できるかという事を確認していくことだと言われました。

講演中、田中さんが何度も言われたのが、全国的に山の土壌がかなり悪くなっているということです。日本各地で見た目は木が生えているが、根が浮き上がったり、土壌が強酸性や強アルカリ性に偏っていたり、養分がなかったり、腐葉土が少なく緩衝効果が低いところがとても多いそうです。 しかもその認識を持った人がほとんどおらず、研究も進んでいません。実験をした奥出雲の山でも、人の手が入らず腐植などがへり、土がさらさらになり一部崩壊しているところもあったようです。

畑と同じように、山も土地ごとに土の状態が違うので、土地に合った施行が必要だと言われ、すごく腹に落ちました。もちろん定期的な間伐や枝打ちも必要です。 最後に田中さんは、今こそ森林施行を真剣に行い、健全な山作りを考える時期です。そして技術者を増やして、見る目がある人を育成することが私の目標ですと力強く言われました。

まとめ

エクスカーション1は、現地をみながら林業について考えることが多かったですが、2日間を通して、山で生活する事、山に手を入れてやることが山の環境を守ることにも繋がり重要だと改めて感じました。それと同時に間伐材の新たな活用方法である「木の駅プロジェクト」や、山の基盤となる土壌の実態について勉強することで、これからはただ木を切るのではなく、切ることで収入になる仕組みづくりを整えることや、木を切る事の意味を体系的に人に伝えていくことも重要だなと感じました。自分の山でも実践していくぞ、と心新たにした2日間でした。