森林を守ろう!山陰ネットワーク会議
島根代表 野田真幹

今回のシンポジウムのテーマ「森づくりとネットワーキング」ですが、地元の事例として『「森林を守ろう!山陰ネットワーク会議」のこれまでとこれから』という題目で、島根大学の片桐成夫先生、元山陰合同銀行の森林保全担当森下義雄氏、野田が報告させていただきました。
片桐先生は、「森林を守ろう!山陰ネットワーク会議」は、「山陰両県の森林が荒廃している現状や、森林を守る大切さを両県民に知ってもらう。」ことを目的に設立されているので、是非、1.人工林の手入れ不足(間伐の遅れ、伐期の延長)2.竹林の放置・拡大(竹の利用不足、代替材への置き換え)3.病害虫の蔓延(マツクイムシ被害、ナラ枯れ)に着目して活動して欲しいとのご意見をいただきました。

特に1の人工林の手入れ不足では、木材の自給率の低下・材価の低迷・高齢化が原因で、結果として間伐の遅れにより、林内の光環境が悪化し、下層植生が減少し、表土の流出もおきており、また、枝打ちされないことにより材質の低下にも繋がっていることと、3に関連して、森林は古くから燃料採取の場として利用されてきましたが、燃料革命以後は化石燃料にとって代わられ、人が森林に入らなくなり、結果として病虫害の被害を受けた木は放置され、病虫害蔓延の温床となっていることに関して詳しく説明いただきました。

また、これらの問題に対して「森林を守ろう!山陰ネットワーク会議」では、1.人工林の手入れに関しては、森の健康診断の普及、山陰各地での間伐、材のバイオマス資源化等に取り組んできたこと、2.竹林の放置・拡大に関しては、石見銀山周辺等の竹林整備や竹炭作り活動3.病虫害の蔓延に関しては、各地における自然観察会等が取り組まれていることも紹介いただきました。

元山陰合同銀行森林保全担当の森下義雄氏と私は、以下のような内容で、これまでの「森林を守ろう!山陰ネットワーク会議」を振り返りました。

このネットワークのスタートは、「森林を守ろう!山陰ネットワーク会議」設立の発起人である、山陰合同銀行の古瀬誠会長(当時、副頭取)が、山陰の森林の荒廃を目の当たりにし、大変強いショックを受け、森林保全活動を通じて、自らの地域は自らが守るという地方ならではのモデルの構築を目指して取り組みを始められたと聞いています。

そして、環境保全活動の地域の実状を考えたとき、NPO法人やボランティア団体、市民の皆さんの思いや目指すベクトルは共通しているが、個々の活動をまとめる中間組織が明確に存在していないことに気づき、「NPOとNPO、ボランティア団体がまとまり、活動や情報交換を密にしてつながれば、地域を動かす大きな“うねり”になるのではないか。」と考え、山陰両県のボランティア団体やNPO法人など、既に地道に熱心に活動に取り組んでいる18団体に呼びかけ、山陰の森林保全ボランティア団体個々の活動の実効性を高めるプラットホームの役割を果たす中間組織として、「森林を守ろう!山陰ネットワーク会議」を2006年4月に発足させました。

オブザーバーとして、山陰両県の、自治体担当課、大学、新聞社にも参加いただきました。事務局は山陰合同銀行(地域振興部)が務め、専属の行員の配置と、活動の協働態勢が整えられました。
2010年9月末には、会員数は43団体(島根県21団体、鳥取県22団体)となり、山陰全域に活動の輪が広がっていきました。

これまでの活動を「広報活動」「実践活動」に大別して紹介します。
「広報活動」としては、環境問題を実践している著名人の講演会(脚本家の倉本聰氏、女優の田中律子さん、環境ビジネスイノベーターの見山謙一郎氏)、シンポジウムの開催、「不都合な真実」封切り前上映会、地元新聞に企画特集「みんなで森を守ろう!」を1年間連載、ホームページの開設と山陰各地で実施される森林・環境保全イベントの随時紹介、広報誌「森活通信」の提供などを通して、森林を守る大切さを広く県民や全国の皆さんに知っていただく活動を展開しました。また、2011年1月に、松江市のくにびきメッセで行われた5周年記念イベントでは、清水国昭氏の講演会の他、各団体の活動を、間伐材で作られた組み立てパネル「組手什」で展示し、各団体5分のリレー活動発表会も行われました。40団体が参加した展示会は大変にぎやかで、大勢の方が見学されました。翌年の2012年には、山陰両県で映画「森聞き」の上映も行われました。

「実践活動」としては、行政の主催するイベント、島根県「森の誕生日祭」・鳥取県「植樹祭」へ毎年参加、森林作業を行う「ボランティアのためのチェーンソー技術研修会」の実施、先進的な環境教育を行う「富良野自然塾」体験研修実施、参加する会員団体が一般市民や子どもたちの参加を得て山陰各地で一斉に実施する「みんなで森を守ろう!統一活動」の毎年実施、間伐材を使用した木製品を都市部の住民に広める「組手什の社会実験」、両県数か所ずつ開催された森の健康診断リーダー研修、島根県と鳥取県の会員同士のイベント参加や研修事業の交流活性化、そして、今回の全国フォーラムと会員のフィールドに限定されていた活動が、山陰全域へ広がっていきました。

『ネットワーク設立の効果』を振り返ってみます。設立前は、各団体は個別に活動をしており、横の繋がり・情報量は少なく、活動は限定的といっても過言ではありませんでした。同じ県内でもお互いの活動や考えはよく分かりませんでした。ネットワーク会議設立後、徐々に顔を合わす機会が多くなり、双方の考えていることや、他団体の活動事例に学びや刺激を受け、シナジー(相乗効果)が生まれました。会員同士の交流の活性化が進み、幅広い情報入手・広域な活動・島根県と鳥取県の垣根を越えて、連携の輪が広がっています。
言い換えれば、お互いに相手や相手の活動に対して、一肌脱げる関係に近付いてきたといえるのではないでしょうか。

徐々に山陰両県の県民の皆さんに、「森林を守ろう!山陰ネットワーク会議」の活動は認知されてきたと感じていますが、まだまだ不十分です。

会員団体の活動をそれぞれの地域で地道に継続することが重要ですが、さらに、次の10年目の節目にむかって、山陰ネットワーク会議ならではの共通目標を見出し、発足当初の活動スローガン“豊かな緑を子どもたちの未来へ!”のもと、活動を進展させていきたいと考えます。