「間伐の遅れによる山林の荒廃」を
小・中学生に伝える

しまね森づくりコミッション(代表:島根県緑化推進委員会)
事務局 野田真幹(NPO法人もりふれ倶楽部)

しまね森づくコミッションでは、賛助会員の企業の皆様の助力を得て、平成22年度30校、平成23年度31校の小中学校を回り、「木切れ工作」「間伐材の和紙づくり」「ネイチャーゲーム」等の体験を指導させていただくとともに、必ず、「間伐の遅れによる山林の荒廃」について考えていただく時間を作っています。

林野庁「森林資源の現況」(平成19年3月31日現在)によると、全国の民有林の人工林率は45.8パーセント、島根県は37.8パーセントでその主なものはスギとヒノキです。

今から30~50年前が人工造林がさかんにおこなわれたピークの時期です。

当時は、間伐の時に柱材等でそれなりの収入があると計算していたと思います。ところが、平成22年度版森林・林業白書によると、スギの山元立木価格1m3あたりで、昭和55年の22,707円をピークに下落して、平成21年には、2,548円となっています。これでは、材を出せば赤字だと山主は躊躇してしまいます。

このような中で、間伐は切り捨て間伐を主体に公共事業を中心におこなわざるを得ない状況となりました。近年では、CO2の増加による急激な地球温暖化対策として平成12年までの5年間、国策で間伐が急激に進められ、材の活用も積極的にバックアップされようとしていますが、これらの事業は、国民多数の理解を得なければ長期にわたって継続してゆくことはできません。

では、間伐が遅れると、どのようなことがおこるのでしょうか。

平成22年度版森林・林業白書によると、「間伐は、成長の過程で過密となった立木の一部を抜き切りし、立木の密度を調整する作業である。間伐は、1.樹木の成長の促進により風雪害や病虫害に強い健全な森林を作る、2.林内の下層植生の繁茂により地表の浸食や流出を抑制する、3.多様な動植物の生育・生息が可能となり、生物多様性の保全に寄与するなど、森林のもつ多面的機能の発揮に大きな意義を有するものであり、林業の観点からは、残存林分の成長促進や間伐材の販売による林業収入を確保するなどの意義を有している。」とあります。間伐が遅れると、これらの機能が低下し、災害にもろく、生物多様性に乏しく、当然木材として質も低下させます。

ただ、これらのことを言葉で説明しただけでは、なかなか一般の方、ましてや子供たちには伝わりません。

そこで、以下の3枚の写真を見せながら考えいただくことにしています。

小・中学生に伝える
間伐が遅れ下層が生えず真っ暗な森林
小・中学生に伝える
5割間伐し2年経った様子
小・中学生に伝える
林業で天皇杯を受賞された
田中惣次氏のみごとな複層林
小・中学生に伝える
間伐材を使った和紙づくり

間伐の遅れによる森林の荒廃を伝えるために、よく用いる自然工作体験に「間伐材の和紙づくり体験」があります。スギやヒノキの甘皮を煮て、叩いて、タブの葉やビナンカズラの茎で作ったネリとあわせて和紙をつくるものですが、この体験とセットで伝えると深い印象を持ってもらえるようです。

学校訪問に取り組んで、特に感じたことは、まだまだ「森を守るためには、木は切ってはいけないのでは?」「スギやヒノキを植えたことは間違っていたのでは?」といった疑問を持ち続けている子ども達、また、豊かな山林に囲まれて生活しているのに、全く周囲の山林に興味を示していなかった子ども達がたくさん存在しているということでうす。間伐したあと生えてくる植物の中には、タラノメやコシアブラのように山菜として親しまれてきたもの、クロモジのように殺菌効果があり爪楊枝として利用されてきたものなど、タブノキのようにスギの葉と線香に利用されたもの等様々なものもあり、木材生産の舞台としてはもちろんですが、色々な切り口から、今、間伐を進めることが未来にとって大切であること、また、たくさんの子ども達に未来の健全な森林づくりのサポーターになって欲しいことを伝えてゆきたいです。

コミッション活動の中で、浜田市の篤林家で「森の名手・名人」の栗栖誠氏の大切の育てられているヒノキ林で、中学生と間伐の大切さについて語り合う著者。